1. 鵜殿のヨシ原は、篳篥(ひちりき)の蘆舌(ろぜつ)に適したヨシの、唯一の生育地です。
篳篥の蘆舌に使用するヨシは、茎の太さや肉の厚み(外径12㎜・内径10mm)、繊維の密度等の微妙な条件を満たす必要があり、土地の環境・土壌によってその質は左右され、他の地域で育つヨシは、これらの条件を満たすことができません。
現在、宮内庁式部職楽部では、鵜殿のヨシ原のヨシのみを使用しています。
2. 蘆舌用ヨシ数千本から実際に質の高い蘆舌が作成できるのは、わずか数本です。
おびただしい本数が必要ですが、現在でも蘆舌用ヨシの供給は十分でないため、努力が続けられています。
道路建設により供給が減少し、蘆舌用ヨシが不足する事態が起こりえます。
3. 新名神高速道路の建設予定地は、最も質の高い蘆舌用ヨシが採取される場所にあたり、宮内庁に収められるヨシもこの地域で生育しています。道路建設により、質の高い蘆舌用ヨシの消滅が懸念されます。
また、建設予定地はヨシ原の一部であっても、生態系とは全体の繫がりの中で成り立っているものであり、建設予定地の生態系に変化が起きた場合、ヨシ原全体への大きな影響となります。
蘆舌用ヨシは、多くの条件を満たす必要があるため、質の高い蘆舌用ヨシだけでなく、蘆舌の条件に適したヨシ自体が消滅することが懸念されます。
4. ヨシ原は人が管理し利用することで維持できる、二次的自然です。環境を守るため、野焼き(ヨシ原焼き)が不可欠であり、ヨシを刈り取った後、害草・害虫の駆除や不慮の火災防止のため、地元住民に行政が協力し、長年実施されています。
高速道路がヨシ原上を通過した場合、野焼きを続けられない可能性があり、ヨシの消滅の要因となりえます。
5. ヨシ原を含めその周辺に橋脚が建設されると、全体の土壌構造が破壊されます。
地下茎(ちかけい)に養分を貯めるヨシにとっては大打撃となり、ヨシの減少・消滅が予測されます。
6. 道路建設過程では、工事用車両のための道路の拡幅や、工事用車両の通行、道路完成後は、道路そのものや車両の通行により、騒音・排気ガス・日射量などの環境条件の悪化が予測され、ヨシの地上部・地下茎への悪影響が懸念されます。
7. 宮内庁式部職楽部の演奏する雅楽は、2009年にユネスコ無形文化遺産保護条約「人類の無形文化遺産の代表的な一覧表」に記載決議がなされました。
これにより、今後伝承されていくべき日本の伝統文化として、日本のみならず国際的にも認知され、歴史的・芸術的にも世界的価値を有することとなりました。
日本は国際条約を締結し、保護の為に必要な措置をとることが課せられています。
8. 1970年代からの河川改修後、河床が低下し、鵜殿のヨシ原は冠水がなくなり乾燥化し、ヨシは急激に減少し品質も低下しました。1996年より国土交通省のヨシ群落保全事業が実施され、淀川からの揚水ポンプとヨシ原への導水路の連続稼働により、ヨシは増加し品質も改善されてきました。
この揚水ポンプと導水路の箇所が道路建設予定地にあたり、稼働の継続が危ぶまれます。
※同時に、地元住民や、1975年から調査研究や保全活動をボランティアと共に行ってきた小山弘道(鵜殿ヨシ原研究所)を筆頭とした地域の環境団体などの努力により、鵜殿のヨシ原の自然と生き物・歴史・文化は守られています。